創設20年を迎えて

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学科創設時からの教授陣より

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青山 藤詞郎 教授
AOYAMA, Tojiro
 細胞ひとつから宇宙スケールに至るまで、その機能をシステムとして捉えることができるデザイン能力を育成することを目的とした「システムデザイン工学科」が設立されてから20年の歳月が流れた。当時の機械工学科、電気工学科、計測工学科から意欲ある教員が集まって真剣な議論を重ね、新たな教育カリキュラムを立ち上げた。そして、数年後には、建築分野と航空宇宙分野を加え、空間環境システムを意識した教育を新たに設けて、我が国最初のユニークな学科が成立した。当初心配された、進学希望者数や卒業生に対する経済産業界の評価については、全く問題ないばかりか、高い関心を得て今日に至っている。新たな組織が活動を開始してから20年が経過した現在、構成教員の学科教育の改善とその実現へむけた意欲は、衰えてはいないと思うが、設立当初に比べるとややマンネリ化が否めない。大学における教育改革がより一層重要視されている今日、我々学科構成員は、半学半教の精神のもと、学生諸君とともに世界トップレベルのユニークな教育を目指して、新たな気持ちで取り組まなければならないと思う。創立20年は、そのための良い歴史の節目である。
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佐藤 春樹 教授
SATO, Haruki
 1996年4月にシステムデザイン工学科の第1期生が産声をあげた。先頭に立つ彼らはその多くが40歳代を迎え、続く後輩達と共に社会を動かす大きな力となるに違いない。当時世界は、カオス(混沌)から自己組織化によって構造の「創発」を生むような、それまで解明できなかった複雑な現象を扱う「複雑系」科学から大きな知的刺激を得ていた。安西祐一郎学部長のもと「Emerging」をキーワードに理工学部組織改組が行われ本学科は誕生した。どんなに小さな細胞であってもそこには40億年の蓄積による複雑なシステムが存在し、その細胞の自己組織化によるとてつもなく複雑な構造の創発が行われた。それが自然環境である。様々な要素間のインタラクションからシステムは創発され、環境とのインタラクションによって深化し淘汰され進化する。今、システムデザインすることの価値を自覚できるシステムデザイン工学者が成人式を迎える。人類の幸福を実現するシステムを創発して欲しい。

現役教員より

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大森 浩充 教授
OHMORI, Hiromitsu
 視野を広げて総合的デザインを行い、価値を提案創造できる人材の育成を目指すという新しい工学教育理念のもと、1996年度に創設されたSD工学科は、2015年度に成人を迎えた。今後ますます工学は発展し技術は変貌し、様々な事柄が複雑に絡み合う複合社会の深度が増す21世紀において、工学分野のアカデミズムの上に築き上げられてきた縦割り工学教育体系では深刻化する諸問題には対応できなくなり、これまで以上にSD工学科の理念と成果を世界に発信しなければならならない状況が生じている。
 SD工学科では、ハードシステムとその周辺環境を含めたシステム全体を想定し、新しい価値の創造を伴ってシステムのデザインを行う「提案型システムデザイナー」の育成を目標としており、つぎの3つの優位性をもつ。
(基礎重視・多様性を有する総合工学)不確定な未来を生きるには、すぐに古くなる最先端よりも、広く工学の基礎を学ぶことが重要である。SDでは、機械、熱流体、生産、電気、情報、計算機、制御、建築、バイオ、宇宙などの原理原則を学ぶことができる。
(社会的必要性と使命)SDは広く浅く・寄せ集めの学科では決してない。実社会の問題解決は、縦型の学問だけでは不可能であり、枠に捕らわれないSDの総合的工学教育を受けた者が問題解決に貢献できる。問題を発見し、その解決法を提案し、それを実行し、「新しい価値」を創造することで人類を豊かにすることができる。
(国際的リーダー育成)「モノづくり」と「コトつくり」の両方を「システムつくり」としてまとめ上げることのできるタフな国際的リーダーに必要とされる勉学と経験を与え、使われるエンジニアではなくエンジニアを束ねるリーダーとなるために必要な統合能力が涵養される。
 海底に生息するイソギンチャクは、足盤と呼ばれるしっかりとした土台の上に、環境に応じて四方八方に触手を漂わせて環境適応している。SD工学科も、工学の原理原則という土台の上に、様々な分野で提案型工学を実践している。このイソギンチャクのような体制をつぎの20年でも崩してはならない。

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三田 彰 教授
MITA, Akira
 元々の専門は建築構造でしたが、今は人と建物との対話をロボットを用いて実現する新しい建築空間の創造に取り組んでいます。このテーマはシステムデザイン工学科ならではのもので、他大学の建築学科では学生の資質もあり、取り組みにくいテーマだと思います。この学科は理工学系の幅広い基礎をカバーする教育システムを取っていて、ひたすら狭い専門分野にまい進しがちなエンジニアに隣の専門分野の人たちと会話する能力を持たせることに特徴があります。このことは企業の技術開発部門で指導的な立場に立つときに必須の条件です。ともすると自分の専門領域での価値観を押し付けがちになりますが、この学科の多様性を維持し、発展させたいと常々願っています。また世界に伍してエリートとして活躍するには宗教・歴史・文化を含むリベラルアーツ教育が若干不足しています。日吉との協力のもと、こうした分野の補強も必要でしょう。

卒業生より

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1期生 木戸 良彦
KIDO, Yoshihiko
祝!SD20周年!

 SD科が創立20周年を迎えられた事を心よりお慶び申し上げます。私は、SD1期生の木戸良彦と申します。SD科誕生の時には、20歳目前の若者でしたが、それから20年が経ち、すっかりおじさんの部類になってしまいました。改めて当時を振り返りますと、先生方も情熱に溢れていましたし、学生同士の横のつながりも強く、活気のある学科だったなと思います。
 今、私は弁理士をしております。弁理士に専門分野を尋ねると、「機械」「電気」「化学」のいずれかで答えるのが常識となっています。私も所属していた長坂研が旧機械科ということもあり、「機械」と答えています。しかしながら、分野の垣根を超える発明が現在では多く生まれており、弁理士として幅広く技術を把握する能力が求められています。そのような意味では、横断的に色々と学べたSD科での蓄積が大変活きており、SD科にいた事に大変感謝しております。
 さて、SD科は創立20周年を迎えましたが、まだまだ通過点です。いい意味での変化をし続けながら、学生、先生、OBの皆で「社中協力」の下、素晴らしい30周年、40周年を迎えられればと思います。

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7期生 成川 沙希子
NARIKAWA, Sakiko
 この度は、SD工学科創設20周年を迎えられましたことを心よりお祝い申し上げます。

 私はSD工学科の第7期生です。分野横断型の学習や研究を通じて、システム設計に必要となる総合力の育成をめざすという理念に魅力を感じ、SD工学科への進学を決めました。学部生の頃は、豊富な講義の中から興味のある制御系を中心に、その他の分野については偏りのないよう履修しました。このことが、私の技術者としての土台を作ったのだと思います。

 学部4年生から修士課程修了までの3年間は、村上俊之先生の研究室に所属し、電動車椅子のパワーアシスト制御の研究を行いました。国際学会での発表や論文投稿などの機会にも恵まれ、電気、情報、機械の分野にまたがる幅広い知識や、広い視野をもって研究に取り組む姿勢を身に付けました。

 修士課程修了後は電機メーカに就職し、テレビ、プロジェクタ等の組み込み機器や、遺伝子を検査する医療機器などのソフトウェア開発に携わってきました。ソフトウェア開発が主な業務であっても、電気回路や制御理論といった他分野の知識が必要になる場面は頻繁にあります。このようなときに、分野を超えて幅広く思考を巡らせたり、専門が異なる人と議論したりしながら課題解決することができると、SD工学科で学んできて良かったと実感します。実務経験を積む中で、SD工学科のカリキュラムは実践に役立つ総合力を養うように考えられているのだと気付かされました。

 ところで我が家には、同じくSD工学科出身の夫が趣味で購入した小型のロボットアームがあります。互いの専門分野であるソフトウェア工学と制御工学の知識を融合させ、巧みにロボットアームを動かす。そのような休日を過ごすこともあります。SD工学科で学んだことは、今の私の仕事にもプライベートにも影響していると感じます。

 末筆ながら、SD工学科のさらなるご発展と、塾生・塾員の皆様の益々のご活躍をお祈り致します。

在校生より

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学部4年生 松井 忠宗
MATSUI, Tadanori
 システムデザイン工学科での3年間の学びを経て、学科の特色である幅広い分野の知識と経験を実際に学ぶことができました。
 しかし現在の体制では、「多分野領域の知識を融合して問題解決能力を養う」というSDの目標を達成しえないとも感じています。確かにSDは「多分野の知識の組み合わせ方」を元々知る学生にはこの上ない環境です。ですが、その他の学生は各分野を浅く学んだのみで終わってしまいかねません。研究室としても融合領域を扱う場はまだまだ少ないのが現状です。
 今後のSDをより高度に発展させていくためには、「実学」的な教育が必要になると考えます。例えば、長期間での「本当に使えるもの」を作るプロジェクトを実施し、「組み合わせから構想を実現する方法」を学ぶことを提案します。学びの実践を通して理論の重要さを再確認しつつ、分野の垣根を超えた問題解決能力やコミュニケーション能力を養うことができるのではないでしょうか。
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学部4年生 青海 美沙希
SEIKAI, Misaki
 大学入学前から地震や防災に興味があり、また幅広い学問に触れられるということでシステムデザイン工学科を志望しました。今行っている研究でも実に幅広い知識が必要とされており、今までにその土壌を培ってきたことはとても意味のあることだと実感しています。
 SD工学は幅広い学問体系と環境との調和性を有することが特徴ですが、実際には後者が上手く表れていないように感じます。確かにSD工学科には幅広い分野の講義が数多く設置されており、そこに魅力を感じる学生も数多く存在しますが、その一方で環境との調和性という軸はまだその存在が薄く、なかなか認識されていません。したがって、提唱するような新しいパラダイムにもまだ至っていないと言えるでしょう。
 そこでより早いうちから研究室と関わりを持てるような授業や制度を導入することを提案します。配属体験でも良いと思います。
 最後になりますが、SD工学がより社会に浸透し、時代が求める学問体系として確立されることを期待しています。