創設20年記念シンポジウム

創設20年記念シンポジウム

aoyama

開会の辞

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科
学科主任
青山 英樹 教授

 慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科は、1996年に創設された日本初の「システムデザイン工学」を冠した学科であり、学科改組に向けて機械工学科、電気工学科、計測工学科から24名の教員が集まり、非常に多くの時間議論を行い創設されたことが紹介された。現在では他大学にも「システムデザイン工学」を冠した学部や学科が多数設置されているが、「システムデザイン工学」の中身については完全には確立されていないようである。世の中の状況も大きく変化しており、このシンポジウムではシステムデザイン工学科の今後の教育・研究についてヒントを頂きたいと挨拶があった。
aoyama

学部長挨拶

慶應義塾大学理工学部
学部長
青山 藤詞郎 教授

 はじめに理工学部内でのシステムデザイン工学科新設の経緯に関して紹介があった。1993年9月開催の理工学部教授会(有賀一郎学部長)ではシステムデザイン工学科設置に関する検討が開始されたことの報告、1994年4月開催の理工学部教授会(安西祐一郎学部長)では電子工学科、物理情報工学科、システムデザイン工学科、情報工学科が新設されることの報告があった。その後、慶應義塾における建築工学に関する教育・研究への期待があり、2001年度からシステムデザイン工学科に定員枠を増員することで拡充されたことが紹介された。
 これから理工学部100 周年へ向けて、教育・研究を通じた人材育成に関する社会からの大きな期待に応えるため、さらなるシステムデザイン工学の卒業生の活躍と学科の発展を祈念すると述べられた。
tokoroma

「21 世紀を生き抜くために」

ソニーコンピュータサイエンス研究所
エグゼクティブ アドバイザー ファウンダー

所 眞理雄

 一人あたりのGDP世界ランキングの推移を見ると、2000年の4位以降、日本の順位が落ちている(27位)。なぜ1980年代後半から2000年まで日本が上位を獲得・維持できたのか、その理由は以下のとおりである。
・教育レベルの高さ・勤勉さ
・戦後のハングリー精神
・低賃金で良質の労働
・為替レート
・一億総中間層(格差が少ない)
 世界・日本の経済の変曲点はさまざまな理由で生じており、上記ばかりでは対応が困難な状況となっている。具体的には、以下に示されるように安定した社会ではなくなってきている。
・人口・食料
・エネルギー問題・地球高温化・原油価値
・グローバリズムと雇用
・過剰流動性・金主主義
・中国の台頭、大中華圏
・BRICS
・米中の時代到来? それとも・・・?
・多極化から無極化へ
 混迷の時代を生き抜くためには、従来のクローズドのシステムからの脱却、オープンシステムへの対応が重要になるとのことである。この流れの中で「オープンシステムサイエンス」を提案されたことが紹介された。クローズドシステムとオープンシステムの一番大きな違いは境界、機能、構造が変化する対象であることであり、行為としての科学の形/方法論として、「解析」と「合成」に加え、「運営」という新たな軸の提案が必要であることが示された。このことはシステムデザイン工学科の理念にも直結するものである。
 最後に、21世紀を生き抜くためには
・Vision(目的・展望)
・Passion(情熱)
・Skill(技能)
・Humanity(人類愛)
が必要であり、オープンシステムの問題に挑戦することが必要であると述べられた。
okazaki

就活時期変更の背景に見る
“今、求められる人物”とは?

リクルートキャリア 就職みらい研究所
所長
岡崎 仁美

 リクルートキャリア就職みらい研究所での就職活動や企業の採用活動の実態に関する研究についてご紹介頂いた。2016年卒を対象とした企業の採用活動においては、そのスケジュールが劇的に変更になったが、これに伴って変動した学生の就職活動期間や動向などについて独自の視点から調査結果が示された。学生へのメッセージとして、「将来を展望する力」、「世の中を知る力」が必要であると示された。
tanishita

社会との橋渡しを先導するSD工学

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構
谷下 一夫 研究院教授
(慶應義塾大学理工学部名誉教授)

 SD工学科20年前の創設時の出来事についてご紹介があり、特長となる考え方について以下のように示された。
・SD工学は水平・横断的思考の集団
・水平・横断的な発想(横串)を元にカリキュラム編成
・異分野のエキスパートが集まるSD工学コミュニティの形成
・既存の分野の枠にとらわれない
このSDの精神はシリコンバレーの文化に似ており、産・官と学の交流のプラットフォームとなることが期待される。特に需要の創出、発掘を行うエンジニアを育成するため、社会との接点を示す科目群(SD工学概論、社会・経済と工学、ヒューマンインタフェース、ライフサイクル工学、製品企画論)が設置され、現在においても発展的に継続されている。
 解析、設計・合成、社会を軸とするSD工学はまさに社会のインフラとして、社会を支える新技術の創生が期待されている。特に、需要を生み出す新技術、社会への解決策を提案し、イノベーションの実現につなげることが期待される。
 最後に、SD工学科を中心とした慶應SD総合研究所の設立に期待したいと述べられた。
hamada

マレーシアでの教育・研究の
経験から

Malaysia-Japan International Institute of Technology
浜田 望 教授
(慶應義塾大学理工学部名誉教授)

 現在教鞭を取られているMalaysia-Japan International Institute of Technology (MJIIT)での教育活動についてご紹介があった。マレーシアは2020年に向けて先進国化することを目指しており、日本式工学教育と米国・イギリス教育(Outcome-Based Education: OBE)の融合を図ろうとしていることが紹介された。OBEは制御タイプ(学習の過程にまで細かく立ち入る教育)であるのに対し、日本的工学教育は自律タイプ(研究室で成長する、講義は研究の基礎として教育)であるという違いがある。これまでの成果として、プレゼンする能力や人をまとめる能力に長ける学生が育ってきていることが紹介された。
 慶應義塾大学理工学部はESE(電気関連学科)の幹事校であり、教員や学生の交流をますます拡大していきたいと述べられた。
ohnishi

SD事始

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科
大西 公平 教授

 SD工学科初代学習指導副主任として、カリキュラム編成にあたっての考え方について紹介があった。システムデザインという概念は「デザインする」というように能動的、行動を伴っていることが特徴であり、20世紀の少品種大量生産という高度工業化社会から21世紀のテーラーメード化による多品種少量生産という超成熟社会へのパラダイムシフトが起こっている中で、新しい研究と教育が必要になっている。
 新しい研究と教育に向けて、多様化を許容する多峰的目標が掲げられた。研究における多様性は専攻専修の活用による学際的研究、進取の気象によって生まれ、教育における多様性は方法論の確立、立体的視野の獲得につながる。
 「SDらしさ」はその教育から見ることができ、強くしなやかな思考でシステムを作り上げる力を鍛えることが重要であると述べられた。
 強靱な思考は以下のマトリックスにより分類され、それぞれ必修科目化がなされている。

強靱な思考

質量がある(空間) 質量がない(時間)
集中 機械力学 電気回路
連続 熱・流体力学 電磁気学

柔軟な思考や幅広い立体的な視野の醸成を目的とし、系統樹が広くかつ社会に密接した科目群になっている。
 最後に、次世代へのメッセージとして、世界の持続的発展のためにシステムデザイン工学で養ったしなやかで強い思考力を活かして欲しいと述べられた。

sudo

システムデザイン工学教育と
生体工学研究への展開

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科
須藤 亮 准教授(SD 1期生)

 SD工学科1期生として学んだ体験と現在、SD工学科の教員として教育・研究に携わる立場から講演があった。SD合宿、講義、卒業研究を通して、システムとは要素がただ組み合わさったものではなく、要素が有機的に組み合わさって機能・価値が生まれることであり、その機能・価値を自らデザインしていくことがSD工学であるとの認識に至ったことが述べられた。
 熱流体、電気と機械のアナロジーのように、工学の本質を理解し、横断的な視点から創発的なデザイン(設計)を実現するところがSDの特長であり、現象から本質(エネルギー保存、運動量保存、質量保存、数理モデル)を理解し、応用に展開することが重要になっている。
このことはポスドクとして留学したMITでも実践されており、基礎学問をしっかりと学び、研究室間の協力体制で創発を実現していることが紹介され、SD出身としての考え方・進め方が世界の最先端の場において通用すると述べられた。
 これからのSD工学科では、① SDの「見える化」の作業を実行、② SD=機械+電気+情報+建築ではない有機的な融合学問体系の構築、③ 要素学問の追及とその結果の横断学問の創成を目標として次の20年、30年に向かってさらに成長・成熟させていきたいと述べられた。
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建築のデザインとエンジニアリング

日建設計 構造設計部門
風間 宏樹 氏(SD 4期生)

 SD工学科卒業後、日建設計に就職し、現在までに携わったプロジェクト(三田キャンパス南校舎など)についてご紹介があった。建築をはじめとするシステムは一人では作ることができず、領域をオーバーラップし合うことで新しいものが生まれると自身の体験を基に述べられた。特に、自分の専門だけでは解決できないことが山のようにありSD工学の掲げる教育が社会に新しい価値をもたらす上で重要になることが示された。
mizuochi

『私って機械系?電気系?』SD卒技術者の利点と苦悩

日立製作所 研究開発グループ
機械イノベーションセンタ
水落 麻里子 氏(SD 5期生)

 SD卒技術者の利点と苦悩として、利点は専門が機械系、電気系の「両方」と言えることであるが、反面、最大の苦悩は「機械系」とも「電気系」とも「両方」ともハッキリは言えないことが述べられた。これまでの自身の体験を基に、SD卒の利点、苦悩について以下のように纏められた。
SD卒の利点
・授業を通じて幅広い分野の基礎知識が身につく
・様々な分野の先生(&同級生)がいらっしゃる
・各分野の第一線の先生方の下で先端の研究ができる
SD卒の苦悩
・自分の専門を一言(○○系等)で説明しづらい
・機械系、電気系出身者と比べて知識の浅い部分がある
 知識の浅い部分がある可能性を認識し、それを埋める努力をすれば、強みにもなると自覚し、SD卒を強みにするために以下のことが重要であると述べられた。
・何を「専門」にしたいかを早い段階で真剣に考える
・各分野の関係を意識し、それぞれをできるだけ深く学ぶ
・異なる専門分野の方との交流を継続する下地を作る
 最後に、SDのこれからの20年に向けて、SDのような学びのスタイルが「普通」になる日が来ることを期待したいと述べられた。
ikaga

閉会の辞

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科
伊香賀 俊治 教授

 次期主任、伊香賀俊治教授より、システムデザイン工学科のこれからの20年間は、深刻化する人口減少、超高齢化、気候変動などの多面的な問題を解決できる人材の育成が問われる時代であり、システムデザイン工学教育への期待はますます大きく、「システムデザイン工学研修」の科目新設など学科の教育研究活動の改善を進めている旨の紹介があり、創設20年記念シンポジウムを締めくくった。